ドバイ、香港、シンガポール。税負担が比較的軽い国や地域へ移住し、高級ホテルを転々としながら、海外不動産や高級車、ブランド品に囲まれた生活をSNSで発信する人たちがいる。
プロフィールを見れば、肩書きは「投資家」「不動産事業家」「企業コンサルタント」など。本人も「すべてクリーンなビジネスで築いた資産だ」と語る。しかし、どの会社が何を提供し、誰から対価を受け取っているのかを調べても、派手な暮らしに見合う事業の実体が見えてこないことがある。
もちろん、海外移住者や投資家が怪しいという話ではない。実際に事業を育て、合法的な節税を行い、海外を拠点に活動している人も大勢いる。
問題は、見せている肩書きと、本当の収益源が一致していない人たちだ。
現在の肩書きより、「種銭」を見る
こうした人物を理解するうえで重要なのは、現在保有している不動産や株ではなく、それらを買うための種銭をどう作ったかである。
表向きは不動産投資で成功したように見えても、最初の数億円を不動産で稼いだとは限らない。過去をさかのぼると、高額な情報商材、実態の乏しいオンラインサロン、暗号資産やNFTの販売・紹介などで大金を集めていたケースがある。
そこで得た資金を、海外不動産、株式、債券など、一般的で説明しやすい資産へ移す。すると、数年後には「不動産で成功した投資家」という外見が完成する。
これは必ずしも法律上のマネーロンダリングを意味しない。しかし、評判という意味では、疑わしい方法で得た資金の出どころを見えにくくし、クリーンな成功物語へ塗り替える効果がある。
したがって見るべきなのは、「今、何を持っているか」だけではない。
「その資産を買ったお金は、最初にどこから来たのか」だ。
暗号資産は、実体を見えにくくするのに都合がいい
暗号資産そのものが悪いわけではない。問題は、仕組みが複雑で、値動きが激しく、発行者や取引の実態を一般の人が確認しにくい点につけ込む者がいることだ。
典型的なのが、自分では価値を検証していないトークンを「次に伸びる銘柄」として宣伝し、発行者側から報酬を受け取る手法である。宣伝報酬や保有関係を明示せず、中立的な投資情報であるかのように紹介すれば、フォロワーは発信者の利益相反に気づけない。
さらに悪質なのが、発信者側がミームコインなどを作り、自ら買いをあおるケースだ。
知名度を使って期待を膨らませ、価格が上がったところで運営側や初期保有者が売り抜ける。後から参加した人には、価値の急落したコインだけが残る。いわゆる「ポンプ・アンド・ダンプ」である。
発行した本人が表に出ず、知名度の低い人物や別会社を運営者として立てることもある。表面上の発信と裏側の利害関係が切り離されているため、被害が表面化しても中心人物までたどり着きにくい。
値動きそのものが偽物の場合もある
もっと露骨な手口では、そもそも表示されている価格や利益が、本当の市場取引を反映していない。
暗号資産らしい名称とチャートを用意し、管理者が価格表示を操作できる仕組みを作る。初期には「資産が2倍になった」「出金できた」という成功体験を演出し、参加者に追加投資や知人の勧誘を促す。
十分な資金が集まると、価格を暴落させる、出金を停止する、運営と連絡が取れなくなる。見た目は投資の失敗でも、最初から資金を持ち逃げする目的で設計されていれば、実態は投資ではなく詐欺である。
この種の案件では、SNS上で目立つ人物が必ずしも首謀者とは限らない。反対に、派手なインフルエンサーが単なる広告塔に見えて、裏では利益を共有している可能性もある。外から役割分担を断定するのは難しいからこそ、肩書きや知名度ではなく、契約主体、資金の行き先、出金条件を確認する必要がある。
ブームが去っても、手口は名前を変えて残る
NFTや一部の暗号資産は、最盛期ほど話題にならなくなった。しかし、ブームが下火になったからといって、同じ仕組みが消えるわけではない。
AI、自動売買、海外不動産、小口投資、オンラインカジノ、未公開株など、その時代に注目される言葉へ看板を掛け替えるだけだ。
共通するのは、複雑で実態を確かめにくい商品、短期間で大きく儲かるという物語、そして発信者への個人的な信頼を利用することである。
一度、人を集めて期待を売る方法で大金を得た人は、地道な事業へ移りにくい。商品を作り、顧客に価値を提供し、少しずつ利益を積み上げるよりも、派手な演出と巧みな話術で資金を集めるほうが早いからだ。
過去に問題のある案件を繰り返してきた人が、肩書きを変えただけで急に堅実な実業家になるとは考えにくい。見るべきなのは、現在のプロフィールではなく、これまで何を売り、誰が損をし、問題が起きたときにどう対応したかである。
SNSはショーケース、閉ざされた場所で稼ぐ
彼らがSNSで見せるのは、ほとんどが派手な暮らしである。高級ホテル、海外不動産、高級車、有名人との交流。そこで商品の詳しい仕組みや契約条件まで説明することは少ない。
なぜなら、誰でも見られる場所で具体的な勧誘をすれば、多くの人から内容を検証されるからだ。矛盾や過去のトラブルを指摘され、誇大な説明や不自然な収益構造が広まる可能性も高くなる。
そこでSNSは、商品を売る場所ではなく、成功者としてのイメージを植え付ける「ショーケース」として使われる。投稿を見た人に憧れや興味を抱かせ、メルマガ、LINE、オンラインサロン、無料相談、セミナー、対面販売といった、外部から見えにくい場所へ誘導するのである。
この段階まで進むのは、すでに発信者へ一定の関心や信頼を持ち、自分から登録した人が中心だ。不特定多数が見るSNSに比べて批判的な目が入りにくく、参加者も「自分だけが特別な情報を得ている」と感じやすい。
クローズドな場では、公開投稿として証拠が残りにくい。相手の反応を見ながら説明を変えたり、個別の成功談を強調したり、その場の勢いで契約を迫ったりすることもできる。参加者同士が情報を比較しにくいため、人によって異なる説明が行われていても発覚しにくい。
もちろん、メルマガやLINE、セミナーを利用すること自体に問題があるわけではない。健全な事業者も一般的に使っている。警戒すべきなのは、公開の場では豪華な生活と抽象的な成功論しか見せず、具体的な収益話や高額商品の販売だけを閉ざされた場所で行う構造である。
「有名だから大丈夫」「お金を持っているから信用できる」という判断は危険だ。SNSで見える人気や暮らしぶりと、クローズドな場所で何を売っているかは、分けて考えなければならない。
怪しい成功者を見抜くためのチェックポイント
投資やビジネスの勧誘を受けたときは、少なくとも次の点を確認したい。
- 会社名、所在地、代表者、提供サービスが明確か
- 主な収益が、ちゃんと説明できるか
- 「詐欺師顔」の人相ではないか
- 利益ばかりを強調し、リスクを説明しているか
- 「今だけ」「選ばれた人だけ」と、判断を急がせてこないか
- 本人の成功談以外に、客観的な事実があるか
- 問題が起きたとき、批判者への攻撃に終始していないか
ひとつ当てはまっただけで詐欺と決めつけることはできない。しかし、複数の警告サインが重なっているなら、近づかないことが最も確実な防御になる。
そもそもの話になるが、儲け話は普通、他人には話さない。
「何で稼いだのか分からない人」にお金を預けない
海外で暮らすことも、節税することも、暗号資産へ投資することも、それ自体は違法でも悪でもない。警戒すべきなのは、派手な結果だけを見せ、そこへ至る過程を説明しない人である。
本当に健全な事業で成功した人なら、少なくとも「誰に何を提供し、その対価としてどう利益を得たのか」は説明しなくても、履歴として必ずどこかに残っている。検索エンジンや会社ホームページからも確認できるはずだ。
反対に、収益の仕組みを尋ねると精神論へ逃げる、批判者を貧乏人扱いする、詳しい説明の代わりに豪華な生活を見せる。これは一部の信者たちの麻酔が解けないようにするための演出だ。
SNSで見える成功は、その人が見せたいように編集された映像にすぎない。