「お金があっても借金した方がいい」
「手元のキャッシュは武器になる」
成功している経営者ほど、こう話す人が多いように思います。弊社は今期で17期目を迎えますが、これまで一度も金融機関からお金を借りたことがありません。
創業期に融資の相談へ行ったことはあります。しかし、そのときは借りることができませんでした。それ以来、お金がなければ諦める。貯まるまで待つ。あるいは、手元の資金でできる範囲から始める。
そんな経営スタイルが自然と定着しました。幸い、弊社の事業は比較的少ない初期投資で始められます。
とはいえ、まったくお金がかからないわけではありません。商品やサービスをつくれば、人件費や外注費が発生します。販売するには広告費も必要です。事業を軌道に乗せるためには、ある程度の投資が欠かせません。
ただ、借りられない以上、少ない自己資金の中でやりくりするしかありませんでした。
創業当初は、ほぼすべての業務を一人でこなし、集客用のブログも自分で書いていました。リスティング広告に10万円を投じて、17万〜18万円の売上が立ったら、その差額をプールする。蓄えが増えれば、それに応じて投資額も少しずつ増やしていく。
時間はかかりますが、堅実なやり方です。ただし、最初はかなり大変でした。個人事業主の頃はアルバイトをしながら、稼いだお金を生活費と事業資金に振り分けていました。生活水準を上げすぎなかったことも、地味に効いていたと思います。
キャッシュが増えても生活レベルをほとんど変えなかったので、私は人よりお金が貯まりやすい方だったのでしょう。そのため、今でも借り入れの必要性をあまり感じていません。
借金をすれば、時間を買える
一方で、経営者の話を聞いていると、「借りられるときに借りておいた方がいい」と言う人が少なくありません。
- お金を借りれば、事業を成長させるまでの時間を短縮できる。
- 手元資金を厚くしておけば、環境の変化にも対応しやすい。
- キャッシュは、いざというときの武器になる。
そう言われると、融資について素人だった私も「確かに一理ある」と思いました。そこで先日、不動産を購入するタイミングで、アパートローンを利用してみることにしました。ところが、提示された条件は想像していたものとは大きく異なりました。
金利は変動で3.75%。思っていたよりも高い水準です。
さらに、次のような条件も提示されました。
- 新しく開設した信用金庫の口座に、常時1,000万円を置いておくこと。
- 毎月5万円の定期預金を10年間続けること。
- 不動産に関するすべての入出金を、その口座に集約すること。
- 不動産を担保に入れ、個人で連帯保証すること。
これまで融資実績がないため条件が厳しかったのか、それとも、これが一般的なのかはわかりません。ただ、私には受け入れにくい内容でした。融資を受けることでキャッシュフローは多少改善します。しかし、それ以外のメリットがほとんど見当たりません。
手元資金を厚くするためにお金を借りるはずが、結果として約1,600万円が動かせなくなる。それでは本末転倒です。さすがにメリットが小さすぎると伝えたところ、条件は大幅に緩和されました。
ひとまず、その内容で合意し、話は申し込みから契約へ進みました。それでも、私の中には違和感が残っていました。
利息以外の見えないコスト
契約の段階になると、書類には事前に説明されていなかった条件がいくつも記載されていました。
- 毎月の試算表の提出。
- 年1回の決算書の提出。
- 年2回のレントロールの提出。
- 火災保険への質権設定。
これらを怠ると、契約不履行になるとのことでした。
「守れなかった場合や、提出が遅れた場合はどうなりますか?」
そう尋ねても、返ってきたのは「本契約どおりにはいかなくなります」という曖昧な回答でした。
「融資額の全額返済を求められる可能性があるということですか?」
そう確認しても、はっきりした答えはありません。
実際に全額返済を求められる可能性は低いのかもしれません。しかし、ゼロではないのでしょう。
金融機関との取引では、説明されなくても当然とされる内容なのかもしれません。ただ、私はリスクについて納得できる説明がないまま契約することはできませんでした。やり取りを続けるうちに、次第に面倒になってしまい、最終的には融資の申し込みを白紙撤回しました。
不動産は、そのまま現金で購入しました。
借金が、必ずしも武器になるとは限らない
今回、実際に融資を検討してわかったことがあります。
まず、最近の借入金利は決して安くありません。今後、さらに上昇する可能性もあります。そして、借り入れには利息以外のコストもあります。資金の一部を口座に置いたまま動かせなくなれば、そのお金を別の投資に使うことはできません。
定期的な書類提出や金融機関とのやり取りにも、時間と手間がかかります。数字には表れにくいものの、これも立派なコストです。たしかに、借金によって時間を買えることはあります。手元資金を残したまま、事業や投資を前に進められる場面もあるでしょう。
しかし、借り入れの条件によっては、そのメリットよりも制約や負担の方が大きくなることがあります。「キャッシュは武器になる」という考え方には、今でも一理あると思っています。
ただし、借りたお金が自由に使えず、契約によって行動まで縛られるのであれば、その武器は思ったほど使いやすいものではありません。今回の経験を通じて、私は「借金は必ずしもした方がいいものではない」という結論に至りました。
もちろん、融資が必要な場面はあります。大切なのは、「借りられるかどうか」ではありません。
- 何のために借りるのか。
- どれだけの時間を買えるのか。
- 金利や手間、制約まで含めても、本当にメリットがあるのか。
そこまで考えたうえで判断する必要があります。
借金は、使い方次第で経営の武器になります。しかし、武器になるという理由だけで持つ必要はない。少なくとも今の私には、借りない経営の方が合っているようです。