「高い報酬を払えば、それだけ良いものをつくってもらえる」
そう考える経営者や発注者は多いのではないでしょうか。
報酬が安ければ手を抜かれる。反対に、高い報酬を提示すれば、その分だけ時間と手間をかけ、質の高い仕事をしてくれる。
一見すると、筋の通った考え方です。しかし、報酬を上げたからといって、仕事の質まで比例して上がるとは限りません。報酬によって高まりやすいのは、どちらかといえば仕事の「量」です。
お金には、人に多くの仕事をしてもらう力はあります。しかし、より良い仕事をしてもらう力については、それほど強くないのかもしれません。
インセンティブが高めるのは「質」より「量」
この点について、興味深い研究があります。
2014年に発表されたメタ分析では、約40年にわたる183件の研究、合計21万2,468人分のデータをもとに、内発的動機や外的インセンティブと成果の関係が分析されました。
その結果、金銭などの外的インセンティブは仕事の「量」を予測するうえで有効だった一方、「質」については内発的動機のほうが強く関係していることが示されています。つまり、報酬は人を動かすきっかけにはなっても、仕事の質を決める要因にはならないということです。
質の高い仕事につながりやすいのは、
「この仕事がおもしろい」
「もっと良いものをつくりたい」
「自分の能力を高めたい」
といった、本人の内側から生まれる意欲です。
※参考:[Intrinsic motivation and extrinsic incentives jointly predict performance: a 40-year meta-analysis] ※参考:[The Structure of Intrinsic Motivation]
経営者ならこの結果を感覚的にも理解できるのではないでしょうか。報酬や給料を上げても、仕事の丁寧さや創意工夫まで変わるケースは、そう多くありません。
依頼側にできること
では、報酬を増やすこと以外に、仕事を依頼する側は何ができるのでしょうか。
関係の土台
ひとつは、相手と良い関係を築くことです。
依頼主に対して悪い印象を持っていたり、仕事そのものにまったく関心がなかったりすれば、「もっと良くしよう」という意欲は生まれにくくなります。
ただし、良い関係を築くことは、相手の要望を受け入れることではありません。それでは、別の形でインセンティブを与えているのと変わりません。
必要なのは、相手を尊重することです。特別なことではありませんが、こうした姿勢が関係の土台になります。それでも良い関係を築けない場合は、どうにもなりません。
教育・指導・指示
もうひとつできるのは、教育や指導です。
間違っている点や改善してほしい点があれば、具体的に伝える。何をどのように変えてほしいのかを明確にする。適切なフィードバックによって、仕事の質が改善することはあります。
ただし、誰もが指示によって質が改善されるわけではありません。伝え方によっては、指示が単なる不満や批判として受け取られることもあります。そうなると、依頼側としても、その人と仕事をする意味が何らなくなります。
指導する側にも、時間と労力が必要です。改善の余地がある相手なのか。どこまで時間をかけるのか。今後も関係を続ける価値があるのか。その見極めも欠かせません。
どれだけ伝えても改善する意思が見られない相手とは、関係を続けないほうがよい場合も多いです。
仕事の質は、本人の内発的動機に左右する
結局のところ、仕事の質に大きく影響するのは、本人の内発的動機です。
工夫したい。もっと良くしたい。期待に応えたい。
こうした気持ちは、報酬だけで生み出せるものではありません。
そこには、自分の能力を磨こうとする向上心や、相手の役に立とうとする利他心、任された仕事をやり遂げようとする責任感など、その人がもともと持っている姿勢が表れます。
もちろん、報酬は重要です。仕事に見合った報酬を支払うことは、相手を尊重するうえでも欠かせません。しかし、報酬さえ上げれば、質の高い仕事をしてくれるわけではありません。身も蓋もない話ですが、どのように接しても、どれだけ報酬を上げても、何にもプラスにならないケースの方が大多数です。
だからこそ、人と仕事を始める際は、どのような姿勢で仕事と向き合っている人かを見極めることが大切です。
誰と仕事をするか。
長期的に見れば、その選択が事業の成長を大きく左右するのではないでしょうか。