ファイナルファンタジーとドラゴンクエストの命運を分けたもの

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ファイナルファンタジー7のリメイク版がついに4月に発売されますね。梅田のヨドバシカメラに行ってもエレベーター横の壁一面で宣伝されているあたり、期待のタイトルであることが分かります。

でも、これ。私は大コケしそうな気がするんですよね。社運を賭けているプロジェクトにケチをつけるのは申し訳ないんですが。

FF7は全シリーズ中でも人気の高い作品です。続き物の作品もたくさん出ていますね。だから、初回版はミリオンヒットはすると思うんです。私も買ってみたいですし。だけど、中身を見た後が恐いですよね。

そう思わされる理由の1つは2014年のリメイク版のリリース発表会に遡ります。その時に発表されたのはただのPC版の移植であって、リメイクとは程遠いものでした。これによって世界中のファンからブーイングを受けてしまいます。焦った経営陣は翌年の2015年6月、PC版移植を撤回し、フルリメイクを約束します。しかし、これが彼らにとっての不幸の始まりとも言えるかもしれません。やる気が無いのに発表してしまった感がどうも拭えないのです。なぜかというと、リリースまで5年もの歳月を要してしまったからです。つまり、計画的な開発環境など用意されてなかったのです。PC版をPS4に移植して手軽に売上を上げようという算段だったのを狂わされた感を感じますよね。

そして2つ目の理由。それは分割販売。FF7リメイクはフルパッケージになっているのではなく、シナリオごとの分割販売です。この分割商法自体は良しとして、問題は何作になるのか製作陣が(ある程度の見積もりはあるでしょうが)はっきり断言できない上に、第二弾以降のリリース日も明確に発表できていないことです。ここに「弱気」を感じざるをえません。社内リソース問題という大人の事情があるのは当然わかりますが、それを差し引いても明確なリードができないのは誰も責任を取りたくないという社内事情を伺わせるのに十分です。それと第一弾リリースまで5年かかっているというということは分割第二弾はいつリリースされるのかとなりますよね。さらに5年?売れないでしょ。5年もあれば他方で技術革新や環境変化が起こるもの。それまでに会社の体力が持つのかという危惧はありますね。

3つ目の理由は、昨今のFFシリーズの不振です。それなりに販売本数を出しているものの、ストーリーやキャラクターの人格がFFのクオリティに達していないことです。創造性豊かなクリエイターが産み落とした作品というよりは、サラリーマンが納期に合わせて規格通りに作ってきた感じがするのです。最近のタイトルほどグラフィックが綺麗なのに、FF独自の美しい世界観が見られないのはそのせいでしょう。

ところで、なぜストーリー性がないかというと、クリエイターの中に世界観がないからです。あるのは「シナリオ(脚本)」だけです。シナリオライターがいて、その通りに都合よくキャラクターが離脱したり死んだりする。時代性や人々の生活、そこから生み出されるキャラクターたちの生き様が感じられない。だから、深みを感じない。

ご都合主義的にキャラを死なせてもユーザーはついていけないわけです。まだ愛着を持たせるところまで行ってないから、悲しくもなんともない。なんで今死ぬの?とキョトンとするしかないのです。時代性もストーリーからまったく伝わってこない。中世のヨーロッパのような建物と衣服を着ている人がいる一方で、なぜだかスマホを持っている。それはそれでいいんですが、そこに理由がないのが問題です。単にシナリオライターが「スマホという通信手段があった方がストーリーが作りやすいから」という理由の可能性が大いにありそうなのです。というか、そうでしょう。

一方でFF7が未だに人気があるのは世界観に魅力が溢れていたことが言えるでしょう。「ミッドガル」という世界。そして、そこに生活する人々や神羅カンパニーのタークス、ソルジャーといった面々。すべてが整合性をもって「面」で繋がっている。だから、すべてが説明できる。キャラクターたちがどのように生まれ、生活し、今の思想を持つに至ったか。それらが言葉で説明しなくとも伝わる。クリエイターが生み出した世界観からユーザーが想像できる。それだけの深みがあるのです。

ロールプレイングゲームは基本的に面の中にある複数の点と点を結びつけて遊ぶゲームです。面という世界はあるけれども点や線でしか移動できないため、世界のすべては知ることができない。だから世界観が美しくあるほど、ユーザーはもっと見たいと思う。続編も出せば売れる。

でも、今のFFの経営陣やクリエイター陣はどうでしょうか。申し訳ないですけど、パッとしないんです。彼らにFF7の世界観を引き継げるのでしょうか。結局はグラフィックとシステム重視になってしまい、あとはシナリオ追加でお得感を出すことになるんじゃないかと。根が張ってないので、表面だけ取り繕って売り逃げしようとするスタンスが見えてしまうんです。

そういえば、最新作のFF15は酷い結果で終わったようですね。本編のストーリーがスカスカだったという批判を受けて、続編での事実上のシナリオ補填を発表したわけです。だけど、続編は商業的に微妙なラインに来ている判断をしたのでしょう。結局開発中止を発表してしまった。一番やってはいけないことですね。これでスクウェア・エニックスという会社の現状が分かったわけです。

クリエイターはつくりたいものがあれば、つくるものです。つくることで表現する生き物だからです。だから、何を言われてもつくって消化させたいはずなんです。商業的に成り立たせられるのか?と上層部に指摘されても、「これは売れる」と自信を持って言う。クリエイターならば。もはや過去に積み上げてきた知的財産をガチャやしょうもないコラボで安売りするしかない組織になったのだろうと私は思います。残念ですが。

一方で同じスクウェア・エニックスの中でもドラゴンクエストはどうか。これは輝いているんですね。海外での認知度は低いままですが、国内ユーザーの満足度は依然として高い。理由を推測すると、初期のクリエイターが残っているからでしょう。堀井雄二、すぎやまこういち、鳥山明。この三人が30年にわたり、つくり続けている。安定したモノが生み出されるのは当然のことと思います。

でも、ここまでFFをコケにしてきましたが、全盛期のスクウェアはすごかったんです。まずファイナルファンタジーという本流があり、支流として聖剣伝説やサガシリーズがあった。

FFは3か4作目あたりから頭角を表してきたわけですが、そこから7作目までの勢いはまさに飛ぶ鳥を落とす勢いだった。ハードの進化を着実にプラスとして取り入れ、FFは劇的なレベルで進化していった。特にFF7のオープニングに鳥肌が立った人は多かったはず。クリエイターたちの良い意味での裏切り。これによって、私達は完全にFFの虜とされてしまいました。

彼らの熱量は世界中(特に欧米圏)に飛び火します。FFは未だに海外で人気があるのはそういう理由です。この頃のFFはドラクエを凌駕していたと私は思います。そして、坂口博信氏を筆頭に安定した開発がFF10まで続いた。

さらにスクウェアは聖剣伝説やサガといった支流にも力を入れていたんですね。これは推測ですが、支流を伸ばしていたのは単なる商業的な理由よりも、FFが人気タイトルになりすぎてクリエイターが自由に遊べる余地が小さくなったから、旺盛な創作意欲の出力場所として製作したのではないかと、そう思うんです。

支流ではFFと同様RPGではあるものの、シナリオや仕様がかなり異なるものであり、RPGとしては斬新なシステムを採用していたわけです。どちらかというと本流よりも支流の方が遊び心を感じさせるものだった。この本流と支流の交差によって、ロールプレイングゲームはもっとおもしろくなった。そして、FFは世界のRPGの覇権を握ったわけです。

ここまでFFのことを批判してきましたが、「好き」であるがゆえにとしか言えません。グラフィックと戦闘システムだけでも平均点は超えているわけですから文句を言われる謂れもないかもしれない。でも、それだけ期待も大きいということなんだと思います。子供の頃、たくさん楽しませてもらった。シリーズを重ねるごとに予想外の進化を遂げる。いつも良い意味で期待を裏切られる。「こんなのつくったぞ!すげーだろ!!」という製作陣の叫びが聞こえてくるかような瞬間を私は見て育ってきました。それは今も私の中で生きており、自分の制作活動に影響を受けている。

人は「つくる生き物」だと私は思います。つくることで自分を表現している。だから、熱量のあるクリエイターの作品に触れるのはおもしろい。刺激され、心を揺さぶられる。FFが時代とともに変わったのは残念ですが、たしかに名作はそこにありました。

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中田俊行

1982年大阪生まれ。株式会社デザインプラスという会社を経営しています。
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