インターネットは人の思考の幅を広くしたか

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「インターネットのおかげで世界は広がったし、情報の多様性も生まれた。」

これはインターネットの特徴として常識的に語られてきたものですよね。だけど、私はこれ逆なんじゃないかなと思ってるわけです。インターネットが普及して世界は狭くなったし、人々の価値観も同一化していったと。なぜなら、インターネットは多様性をなくしてフラットにしていくツールだからです。意図的に誰かが多様性をなくそうとしているのではありません。常識や共通の考え方のようなものが普及しやすいために起こる現象です。

評価が数字で可視化されるのがインターネット

その要因の1つとして、評価が可視化されやすいことです。アマゾンや食べログではユーザーのレビューや評価が数字で可視化されます。facebookやYoutubeでもそうですね。いいねやチャンネル登録数、再生数といった数字が可視化されています。これらの「数字」が人々の価値観に影響力を及ぼすわけです。

その為、自分が感じたことよりも他者の評価がまず気になってくる。リアルで会話していても、他者の考えを聞いてから発言する人がいます。他者の意見に説得力があると、途端に自分が元々持っていた考えを控えて相手に合わせると。この「自分の感覚を疑ってしまう」傾向を引き出す特徴がインターネット上のコミュニティにはあります。

ソーシャルブックサービスの「はてなブックマーク」では最初の方にブコメした人でスターがたくさんつくと、後は引きづられるように似たようなブコメが続く仕組みになっています。1番スターが付いている人とは微妙に切り口や視点は異なるが、基本的に言ってることの骨子はみんな同じです。見る人、書き込む人がそれぞれ微妙に異なる価値観をローラー作業で同一化していく。そんなふうに見えるんですね。

損得メリットの為に評価を上げようとする

今の時代は商品やお店、企業が評価されるだけではありません、人間個人も様々な角度から評価される時代です。ツイッターのフォロワー数やFacebookの影響力もその一つでしょう。ただ、ここでの評価とは本来人間が求めている評価とはまた性質が異なります。

人から認められたり、自分がつくったものが実際に役に立っていることを知れば嬉しいものですよね。そうした体験の積み重ねが自信や考えを深めていくのに繋がっていくわけです。だけど、インターネット上でインスタントに付けられる評価では深めることよりも、人をおもねる方向に動かす力が強そうです。

Uberではドライバーだけでなくお金を払う客側もポイントで評価されるようになっています。乗車している短時間の表面的な態度が数字に現れるわけです。評価があまりに低すぎるとサービスを利用できなくなってしまう恐れがあるので、高評価を目指すインセンティブが働く。ここに「評価経済」と呼ばれるものの本質が現れています。損得メリットが行動や思考の基準になっているというわけです。

企業も評価に動かされるようになる

尖っているようで尖ってない。尖ってるように見せかけている。最近はそんなことをよく感じるようになりました。

例えば、尖ったCMやプロモーションをやろうとする企業は多いですが、炎上したら光の速さで取り下げるわけです。尖るのは悪いことではないと思いますが、批判されて簡単に日和るんなら最初からやらない方がいいでしょうね。

尖るというのは、本来「自分がこう思う」というのが軸にあって、その結果として尖ったものが出来上がるわけでしょう。先に「尖る」がありきではないわけです。「尖る」が先に来るのは、そうやった方が注目されそうとかが目的なわけで、要はお金でしょう。

インスタ映えを意識して料理を提供するお店もそういう意味では同じです。サービスの提供者側の思考や動きが、周りの評価に引きづられていってしまう。よって、尖っているようで尖ってない。結局はみんな同じでした、という結論になる。

なぜ、炎上が起きやすくなったのか

なぜ炎上が起こるかと言うと、同じ考え方の人がたくさんいるから成立するのです。週刊誌がネタを投下しても燃えやすいものと燃えにくいものがあるでしょう。それは同じ思考で怒る人が多いか少ないかによって変わってくるのです。不倫は燃えるけど浮気は燃えないとか、みんな知ってる人なら燃えるけど知名度が低いと燃えないとかね。逆に多様性のある社会では、よほどみんなが一致団結するような大事件が起きない限りは燃えないわけですよ。そんな先進国はもはやないと思いますが。

で、今は毎月、いや毎日のようにどこかで炎上騒ぎが起こっているわけでしょう。もはや、インターネットを中心とした社会には多様性などないという証明です。みんな周りを気にしながら生きているし、どこかおかしいのです。

ネット上に用意された模範解答が自分の考えになる

気になるのは、個人の発言にもどこかのコピペかと思うようなものが増えたことです。

例えば、採用の面接をしているとみんな口を揃えたように「好きなことをして生きていきたい」と言います。で、好きなことって何ですか?って聞くと、「社会の役に立ちたい」「海外を飛び回りたい」といった答えです。

好きなことをして生きていくのが悪いと言ってるのではありません。結果的にそれができた人生は素晴らしいです。

ただ、結果そうなっていたというのが自然だろうと思います。先に見つけようとしても見つからないものだからです。好きなことで生きていくには、結果が必要不可欠です。なぜなら、人に必要とされてきたから結果があるのです。自分の思考の元に作られたモノを必要とし、お金を出してくれる人たちがいるからこそ、「好きなことをやれる」ということでしょう?だから、結果を出せているかどうかは重要なのです。

インターネット上の、わかりやすくて評価の高い言葉からコピペしてきても、それは自分の核とはなりません。自然にたどり着いた境地ではないので、今自分にとっては必要でない思考かもしれず、そうなると自分を迷わせる材料になってしまいます。裏を返せば、迷い人にとって都合のいいフレーズがネット上にはたくさんあるということでしょうか。

インターネットは狭いが日本は広い

まとめると、インターネットの普及は、みんなの思考や価値観が1つや2つの高評価なものへと集合するようになったということでしょう。高評価なコンテンツがコピペで拡散されて、それは人間性や価値観にまで及んでいった。今はまだその過程で、これからさらに同一化し、おもしろい考えができる人は減っていくと思います。

ところで、インターネットの世界は狭いですが、日本は広いと思います。実際、日本にはラジオしか聞かないとか、ネットはアダルトサイトでしか使わないという人も結構いるでしょう。まだまだインターネットにどっぷり浸かってない層が厚いのです。

ただ、若い世代を中心にこの構造も変わっていくでしょう。こうした構造を分かった上で、コンテンツを作っている人もいるわけです。プラットフォームも評価基準や承認欲求ベースで作られたものは成功していますよね。そんな時代の流れを傍観しながら、自分は世界の外側で生きていくというのが一番平和だし、楽しいと私個人は思います。

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中田俊行

1982年大阪生まれ。株式会社デザインプラスという会社を経営しています。
WordPressテーマTCDを運営したり、ブログやメルマガを書いたりしてます。

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