投資家から出資を受けて起業するスタートアップの問題点

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起業するなら、いきなり独立するか、副業から始めるかのどちらがいいのか、という記事を以前に書きました。

ただ、最近はもう「起業」という言葉自体が死語になりつつあるんじゃないかとも思ってます。理由は、10年以上前と今とでは起業の重みであったり、含みが変わってきているからです。昔は自分で事業を興すことには大層な意味合いが含まれていたように思いますが、今はカジュアルに誰でもできます。

ブログのような活字媒体だけでなく、YouTubeといった音や映像を含めたコンテンツで個人が広告収入を稼げるようになったこともありますし、クラウドソーシングやリアルビジネスにおけるマッチングサービスが活性化したことで会社に属さずともお金を稼ぐ手段が増えたからです。それで食べていけるかは置いといて、「小さく生んで大きく育てる」という商売はリスクがほぼなくなってきているので、人生の大事業でもなくなってきているわけです。

それでもトーキョー界隈では今でも「起業」が盛んです。ただ、トーキョーの起業は一般的な起業とはまた意味合いが違うんですね。彼らは大きなリスクを抱えながら一攫千金を夢見て勝負を挑みます。俗にスタートアップと呼ばれるもので、VCや投資家などから出資を受けて、スタードダッシュをかける。「小さく生んで大きく育てる」のではなく、「大きく生んで一気にゴールまで持っていく」という思想の元に動いているのです。

出資側も経営陣も、上場か売却というイグジットで莫大な利益を得ることが目的です。逆に言えば、その思想がなければ出資を受けることはできません。そうした企業の特徴としては資本金が最初から億を越えてたり、メディアや投資家のSNSなんかで取り上げられたりしているので、表から見ていてもすぐに分かります。

そして、もう一つの特徴としては花火のようにブチ上がってはすぐ消える、ということです。トーキョー界隈のネットメディアや有力者が一斉に動き出すので注目は集まりますが、サービスがお粗末なままブチ上がったりするので、広告費や出資金の返済など迫りくる大きな重圧に経営陣が耐えられずに消えてしまうのです。とは言え、出資側とすれば一定の割合でイグジットすればいいので、計算済みのこととも言えます。私の昔の知人も東京へ出てブチ上がりましたが爆死後に再起中です。

こういう世界は表面だけを見ると華やかに見えます。ただ、本質を見れば、本当に良いサービスをつくりたいならスタートアップにこだわる必要はありません。

外部資本を入れるということは、宣伝広告費や商品開発でブーストがかかったり、投資してくれた人の個人的な力も借りることができたりとプラスの恩恵は受けられるでしょう。ただ、その分、経営者が自分で舵取りすることは困難になります。言ってみればサラリーマン社長と同じです。

自分がやりたいと思ったことを何の気兼ねも配慮もなくやれるかどうかは、社長が独力で立っているかどうかに大きく関わってきます。最初から色んな人達の力を借りてしまうと(特にお金を入れてしまうと)、その人達の意思に引っ張られやすくなるわけです。例えば、すでに手垢の尽きまくった実行効果も薄そうな行動をとるようなことはなかなか難しいでしょう。でも、結果が出るかどうか理屈では説明できない遠回りが社長自身の経験や血肉となり、後に活きてくるのです。

2つ目の問題は、最初から大きな勝負をすると小さな勝負の中から得られる経験が蓄積されないということです。歴史で例えると、最近起こったことは知っているけど昔何が起こって今があるかを知らないことと同じです。歴史の蓄積や知見がないまま今を戦うことになるわけです。例えば、テレビCMを打つのもいいですが、そこに至るまでの段階があると思うんですよね。いきなりテレビCMを打てば、白か黒かはっきりとするでしょう。でも、白と黒の間にあるグレーな部分に目が行かない。本来はそこでの戦い方が重要なのです。

3つ目の問題は、経営陣が出資者の意向に合わせて事業構想を作りがちということです。出資が集まっている事業を見ていると、目新しいものに限られます。手垢にまみれた既存サービスにお金は集まらないわけですね。となると、起業したい側もそこに合わせていくので、革新的なサービスというよりは新奇なだけのサービスばかりが増えていく。ただ、私が思うのは目新しければいいわけではないということ。既存のサービスでも問題はたくさんある。問題というよりは、全体的に低品質なまま成長が止まった業界はたくさんあるわけです。

私がWordPressテーマを開発し始めたのも同じ理由です。ローンチした2010年当時からすでに目新しい事業ではなかったですが、自分がサイトを作る中で使いたいと思えるものがなかったし、海外産がいいわけではなかったけれど国産は比較にならないクオリティだったという単純な理由からTCDを作ったわけです。タネはもっと身近にあるし、目新しければいいのではないんですね。

あと、これはあまり知られてないことですが、「小さく生んで大きく育てる」方が経営者のお金の面でもいろいろと有利だと思いますよ。インターネットによるマーケティングはコストが従来ほどかかりませんし、手法を突き詰めていけば利益率が高い状態で売上が伸びていく。これはインターネットを使って小さく生んで育てていったから分かる世界です。それなりに育てれば、スタートアップでブチ上がって名の知れた起業家よりずっと収入があったりします。そもそも彼らの多くは役員報酬すら満足にとれませんから。これは本当の話です。

もちろん、これはスタートアップを全否定するものではありません。ビジネスを加速させていくのにお金が必要なときはあります。あくまで事業を爆速で動かしていく手段なので、目的ではないわけです。目的化すると品質面で劣ったものしか生まれないし、世界でなんて到底戦えないと思います。

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中田俊行

1982年大阪生まれ。株式会社デザインプラスという会社を経営しています。
WordPressテーマTCDを運営したり、ブログやメルマガを書いたりしてます。

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